東京高等裁判所 平成10年(行コ)9号 判決 1998年11月19日
東京都文京区本駒込五丁目六五番八号
控訴人
前田晴啓
同所
控訴人
前田文子
右両名訴訟代理人弁護士
今井勝
同
摺木崇夫
東京都文京区本郷四丁目一五番一一号
被控訴人
本郷税務署長 中田晃
右訴訟代理人弁護士
中村勲
右指定代理人
川口泰司
同
木上律子
同
横尾輝男
同
伊藤浩視
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を収り消す。
二 被控訴人が控訴人前田晴啓の昭和六二年分の所得税について平成三年一二月一三日付けでした更正処分(異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額五九九五万一六一二円、納付すべき税額一二四八万七二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(同)を取り消す。
三 被控訴人が控訴人前田文子の昭和六二年分の所得税について平成三年一二月一三日付けでした更正処分(異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額五七六二万二四五四円、納付すべき税額一二三二万三〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(同)を取り消す。
第二事案の概要
次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一三頁二行目の「同年」を「昭和六三年」に、二四頁一〇行目の「三億八六五〇円」を「三億八六五〇万円」に、二八頁一一行目の「八一四一万七二〇〇円」を「八一四二万七二〇〇円」に、同末行の「通則法」を「国税通則法(以下「通則法」という。)」に、二九頁五行目の「国税通則法(以下「通則法」という。)」を「通則法」に、五六頁七行目の「玉虫設計」を「玉蟲設計」にそれぞれ改め、同末行の「東」を削る。
二 当審における新たな主張
1 控訴人らの主張(争点1についての主張の補充)
(一) 本駒込の家屋の地下一階部分につき固定資産の償却等(損金扱い)をしていないことについて
仮に、控訴人晴啓が地下一階部分を事業の用に供していたら、同部分について固定資産償却損を計上することができたし、本駒込の土地及び家屋の固定資産税及び都市計画税の事業用割合部分について事業所得の損金として算入できるのであるから、税理士にその旨伝え、税理士において右償却損及び固定資産税等を損金として申告していたはずであるが、控訴人蹄啓がこれまで右の申告をしていないことは、地下一階部分を事業用の資産として認識していないばかりか、現実にも事業の用に供していなかったことを示すものである。
(二) 事業用の買換資産の範囲について
仮に、地下一階部分全体が居住用として認められないとしても、地下一階部分の和室は控訴人晴啓が引っ越した時から書斎、居室等として使用しているから、この部分は居住用財産に該当すると認めるべきである。そうすると、地下一階の床面積一四四・四八平方メートルのうち舞台及び舞台廻り部分九八・〇四平方メートルだけを事業用と認めるべきであり、右面積割合は本駒込の家屋の延床面積四七三・三四平方メートルの二〇・一七パーセントであるから、その余の七九・八三パーセントは居住用部分とすべきである。
2 右主張(一)に対する被控訴人の反論
(一) 控訴人晴啓が本駒込の物件の減価償却費及び公租公課を事業所得の計算において経費として計上しているか否かによって、当該物件が事業用であるか否かの認定が左右されるわけではない。
(二) 控訴人らの主張に基づいて、本駒込の土地及び建物の事業用資産に係る減価償却費及び公租公課について検討すると、まず、本駒込の家屋は、昭和六三年一二月一五日に建築取得されたから、同家屋に関して昭和六二年分の減価償却費が生じる余地はなく、同年分の固定資産税等の賦課もない。次に、本駒込の土地は、昭和六二年七月二一日に購入取得されたものであり、固定資産税等としては、第三期分及び第四期分各五万四八〇〇円の合計一〇万九六〇〇円と認められるところ、これに事業用部分の割合三〇・一六パーセントを乗じて算出される三万三〇五五円が事業所得の計算上、必要経費として算入できるから、控訴人晴啓の昭和六二年分の事業所得(総所得)金額は、一六〇万三八九七円となる。これにより、その納付すべき税額を計算すると、本判決別表(原判決別表三に手書きで修正記入したもの)記載のとおり、八一三二万一三〇〇円となり、控訴人晴啓に対する本件更正処分に係る納付すべき税額は、右の納付すべき税額の範囲内であるから、結局、同処分は適法である。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八〇頁一一行目の「現存しな」を「現存しない」に、八三頁一行目の「別表四の1、同2、同3」を「別表四の(1)ないし(3)」にそれぞれ改める。
2 当審における控訴人らの新たな主張について
(一) 事業用資産の固定資産の償却等をしていないことについて
仮に、控訴人晴啓が所得税の申告において本駒込の物件の事業用部分に係る減価償却費及び公租公課を事業所得の計算において経費として計上していなかったとしても、このことから、控訴人晴啓が本駒込の物件を事業の用に供していなかったと認めることはできず、本駒込の家屋の地下一階部分が事業用部分というべきことは前記認定のとおりである。ところで、控訴人晴啓は、平成元年分ないし平成三年分の所得税の申告において、本駒込の家屋の水道光熱費の一部を事業上の必要経費として申告していることを自認しているところであり、仮に、右減価償却費及び公租公課を事業所得の計算において経費として(全く又は正確な金額を)計上しなかったとすれば、単に申告所得金額の計算における過誤にすぎないものといわざるを得ない。この点については、証拠(乙三〇ないし三二)によれば、控訴人晴啓の右各年分の所得税青色申告決算書には、右水道光熱費のほか、租税公課及び減価償却贅が計上されていることが認められ、右計上額は、控訴人らの主張する事業用割合に基づいて計算されていると推認される。そうすると、控訴人らの主張は、そもそもその前提において失当であり、いずれにしても採用することができない。
なお、控訴人らの右主張は、争点1の本駒込の家屋の地下一階部分が居住用か、事業用かについての主張であって、本件更正処分に係る控訴人晴啓の昭和六二年分の事業所得(総所得)の計算自体を問題としているものではないと解されるが、一応、控訴人らの主張を前提として、控訴人晴啓の昭和六二年分の所得税額について改めて計算し直すと、被控訴人主張のとおり認められ(弁論の全趣旨)、本判決別表記載のとおりとなり、控訴人晴啓に対する本件更正処分に係る納付すべき税額を上回るから、同処分に納付すべき税額を過大に認定した違法はないことになる。
(二) 事業用の置換資産の範囲について
本駒込の家屋の地下一階部分全体が一体のものとして、事業用部分と認められることは前記説示のとおりであり、原判決別紙四記載のとおり二階に書斎があること(乙一の3)、その他前記認定の本駒込の家屋の構造及び設備の状況等に照らして、地下一階部分の和室を控訴人晴啓がその書斎、居室等として使用し、通常居住の用に供していると認めることはできないから、控訴人らのこの点についての主張は、採用することができない。
二 よって、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 裁判官 佐藤陽一)
別表
課税標準及び税額の計算
<省略>
分離課税の長期譲渡所得の税額の計算
<省略>